おやじ図鑑

かっこいいおやじたちについてただただ書くブログ

図鑑1 おやじかわいいジロウさん

愛想笑いに頬がつりそうになるような飲み会の後,身を清めるべく帰り道に見つけた立ち飲み屋にふらりと入る。

お客は私だけで,4か月前にお店を始めたばかりというマスターとぽつぽつ話しているとジロウさんが入ってきた。

白いハイネックのセーターに,黒いジャケット,黒いパンツ,黒縁メガネ。

「楽しそうなところに邪魔しちゃ悪いから端っこにいるよ」と言いながら,完全に会話の主導権をさらっていく。

「お仕事は?」と聞かれ,含み笑いをしていると,「女性にいきなり仕事を聞くなんていう野暮なことをするなんて,俺もかっこ悪いことをしてしまった」とな。

そのお言葉,かっこいいす。

いつもこの立ち飲み屋で一杯ひっかけて,気合を入れて隣のスナックに移動するらしい。

そんな話するってことは,スナックへのお誘いの前振りかと察知し,そろそろと帰り支度をはじめるが,時すでに遅し。

当然のように支払いを一緒に済ませてくれ,「せっかくだから隣行こう」と。

「せっかく」の押し売りか。

マスターいわく,ジロウさんはいい人で,隣のスナックも30年続く面白いところだから行ってみて大丈夫だと。マスターとジロウさんが結託している感じはまったく見受けられなかったので,「せっかく」のお誘いに乗った。

スナックは私好みのど真ん中で,昭和の雰囲気そのままのスナック。
決して綺麗ではないけれども包容力のあるママが切り盛りしている。

「俺に合わせないで,若い子の曲歌っていいよ」とジロウさんは言うが,
きっと好きだろうなと思い,高橋真梨子の「ごめんね…」をチョイスすると,鼻の穴を膨らませて喜んでくれた。
「よく好みわかったね!」とな。

簡単だ。
ただ,こんな単純なおやじのかわいさが無性に良い。

五木ひろし木の実ナナの「居酒屋」をデゥエットすると,思春期の少年たちと差がないくらい分かりやすくテンションが急上昇。

「名前聞くほど野暮じゃない~」と歌い,「ぼく聞いちゃった」と照れてくる。
「ぼく」と言ってる時点で憎めない。

そして,十八番だという「Che Vuole Questa Musica Stasera」(ヒロシです…の曲)を目をつぶって熱唱。

哀愁のある歌声に不覚にも引き込まれる。

深夜1時を過ぎたところで,少しばかり淋しそうな顔をしながら「そろそろ帰らなきゃ」とつぶやくと,ママにタクシーを頼んでくれ,タクシー代を握らせてくれながら「せめて握手を」と。

紳士的な締めくくりのおかげで,今夜過ごした時間がすべて素敵なものに感じてくる。

タクシーに心地よく揺られながら,また偶然出会えればな,なんて思っている。

おやじにしか出せない味。
強引さとかわいさと紳士らしさ。
そんなジロウさんとの素敵な出会い。